062992 ランダム
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♪わさわさの妄想部屋♪

♪わさわさの妄想部屋♪

水面下~蒼~

 
人はやがて 「現実」から「白」へ辿りつく

水面下は蒼く染まる
それは 戦火とは似て非なる対照的な色
―― 少年たちが 「現実」から放たれる「橙」

この世界で「現実」が好きという者は
よほどの悲観論者であろう
あまりにも悲しすぎて
あまりにも酷すぎて
あまりにも――
切なすぎて

彼らは再び出会った
だけど 出会えなかった
少女が少年を見つけたのは戦場だった
喜びは 刹那に悲哀へと変わる
少年は「緑」を失い 誰であろうと見境なく剣を向ける
その姿はまさに
―― 狂戦士

それは かつての少女にあまりにも似すぎていた
少女は少年の名を叫ぶ だが少年は気づかない
少年の前に立ちはだかろうとも 少年は少女に剣を向けた
何度その剣を切り払おうとも 少年は少女を見つけられない
ただ 今この場に
少女でない誰かに向かって呼びかけるように
少年は 空へ咆哮する
その剣に どれだけの悲しみを込めたと言うのか
少女の声は風に消える
血に染まりすぎたその少年の手は 少女の瞳に痛く映る

私は知っている
「緑」を失いながら生き続けることを
「白」のない世界で生きる苦しみを
「罪」に追われ 彼は「恐怖」に支配される
「記憶」に苛まれることが どれほど心的外傷になるか


ごめんね


私の手に 赤い 赤い血が伝う
それは 今まで見たどんな血よりも赤かった
彼は何も言わない
何も見えていない
自分の体が貫かれたと言うのに
彼の視線は空を泳いでいた
もう 彼は私を見てはくれない
温かみのない血が 私を伝う

私は間違っていない
私は彼を解き放った
彼はもう戻らない
だから 止めるのが 彼にとって最良の術

だから
貫いた

だけど
涙が止まらない

もう一撃 私の腕は彼を貫く
彼は何も言わない

ただ一度
私の名を呼ぶ以外は

彼は私に寄りかかる


―― ごめんね


そして血に染まったその手で 彼を抱いた


 ……私は 彼を助けられませんでした


少女は空へそう呟いた
それが 誰に向けられて言われたものか
それは少女しか知りえない
少女は 人形のようになった少年の剣を握り締める


―― これで 彼に会えるかな


少女は涙へ囁く
少女は 剣を自分の喉へ突きつけた

そして――


空は茜色に染まる
「少女」はその空を見て 涙を流す


―― 主よ 彼らに「白」の安らぎを


戦いは 二人など存在しなかったかのように続けられる

「少女」は知っている
少年が歩んできた道のりを
少女が見てきた世界を
「少女」は少女に「蒼」の手を差し伸べた
だけど 間に合わなかった
……否
間に合うものではなかった
全てが 遅かった

運命というのは誰が知っているのか
それは「少女」も知らない真理
戦場に流れた 二つの「蒼」
戦いは 二人は存在しなかったかのように続けられる
もう 見届ける者は誰もない……


そして物語は「現実」を離れる
水面下は あまりにも無情だ
男は何も言わない
水面下だけが知る真実
男は どんな結末を見るのか……

誰も振り向かない 戦場で見せた
水面下のみ語り継ぐ
 「蒼」の世界……




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